痛みの記憶

多くの人が抱える痛み。人によって原因は様々で治療薬も多様化してきました。

ある日の外来のひとコマ。
先生 「Aさんの検査の結果は何も異常がなかったよ。脳神経外科も検査は異常なしだし、整形外科的な所見もないし、血液検査でも内科的な異常はない。からしてAさんは健康ということです。」
(Aさんは足を中心とした体の痛みと痺れで5年も悩んでいるそうで来院されました。)

Aさん 「じゃあなんで私の足は痺れて痛いんですか?5年も苦しんでいて夜も眠れない程なのに。」

先生 「脳が誤作動をしているんですよ。痛みを生むきっかけはあったかも知れないけれど、体は元気になったのに脳が痛みの記憶で今もそう感じさせていると考えます。理由はAさんが問題なく日常生活をおくれていること、考えうるあらゆる検査でも異常がないことです。」

(Aさんは痛みが良くなると言われることは、整体、マッサージ、漢方、ヨガ、体操、ダンスなど色々試してきたそうで今もヨガとダンスと体操は続けているそうです。痛み止めや漢方薬など薬はほとんど効果がなく、家族や親戚、友人などから色々な情報が集まり、悪い病気ではないかと心配が膨らむ日々のようです。)

Aさん 「整体では骨が曲がってると言われました。それが原因では?」

先生 「レントゲンもMRIも異常なしです。多少の歪みは誰にでもありますし、Aさんの場合はそれが原因とは考えにくいです。現に骨が原因だとしたらヨガやダンスは痛くてできません。原因がないので痛み止めが効かないのも証拠といえます。」

Aさん 「じゃあ、私はどうすればいいんですか?」

先生 「痛みを理解して脳の誤作動を少しずつ修正していくことです。今のAさんの脳は痛みのことでいっぱいです。しかし、ヨガやダンスなど体を動かしたり楽しいことをしている時は気が紛れて痛みを感じなくなる。また夜にじっとして考えると痛みのことで頭がいっぱいになり眠れなくなる。修正するには体を動かしたり楽しいことをたくさんして、痛みの記憶を嬉しい、楽しい記憶で置き換えていくことです。それには周りの方の情報も不安を大きくし妨げになることがあるのであまり聞かないことです。Aさんは健康なので自分の体を信じて自信をもって元気に楽しく過ごすよう心掛けて下さい。薬もないと不安であれば処方しますが今のAさんには必要ないですよ。」

初めは受け入れられないようで質問責めでしたが、じっくり時間をかけて先生に説明を受けたAさんはやっと納得して帰られました。

痛みの記憶、脳の誤作動。脳は不器用で真面目すぎるのかもしれません。
ケガや異常があると痛みという感覚で信号を出し知らせます。痛みが出ると異常を察知し治そうとしたり、それ以上悪化させないよう用心することができ体を守ることにつながります。最近分かってきたことはこの仕組みの誤作動です。原因は治っても痛みを感じ続けた脳に記憶が残り痛みの信号を出し続けてしまうのです。痛みは本人の訴えなので西洋医学的な原因が見つからない場合はどうすることもできません。

こういった症状の方には東洋医学が合うのではないかと思います。
特に鍼灸は話をしながら施術できるので聞いてほしい事、心配な事、楽しい事たくさん話して体を開放していくことができます。もちろん静かに施術を楽しみたい方もゆっくりしていただけます。
鍼灸自体の鎮痛作用や自律神経調整作用ももちろんですが、気持ちいいという感覚が脳の記憶の置き換えに効果的と言えます。しかしここには治療家と患者さんの関係が大きく関わります。信頼と安心感が大きな治療効果を生むのです。一度東洋医学を試して全く効果がなかった方も懲りずにまた試してほしいと思います。
病院が色々な科があり色々な先生がいるように、鍼灸も色々な方法(流派)がありたくさんの先生がいます。相性の合う治療家を見つけることが治療の早道です。